過去作品「しろい日」脚本

62015.8.15 まにまに「しろい日」
作・演出 吉村桜子
音楽   野呂有我
絵    河合真維
出演   後藤万奈(ぶんちん)
演出補佐 かしやましげみつ(孤独部)

おじいちゃんがしんでもう8年になる 9年だったかもしれないが
とにかく、今年の夏ははじめて、佐賀に帰らなかった

わたしの上空1万メートルを、ひこうきが
ごーーー、、と、飛んでいる

エアコンの効いた部屋はきもちよくて、
わたしは、すいそうの金魚を、ぼんやりながめていた

「あ、はねた、」
金魚を見ているうちに、なんとなく、すいこまれるような気もちになる。

足が、そっと浮く

弟の育てていた、ウツボカズラのことをおもいだす。
どこかから、お線香のにおいがしている。

どくだみのかげで、金魚がわらっていた。

海が、いつの間にか近づいてきていて、
あっ、
というまに ぶくぶく わたしはのみこまれていた。


《うごめく町》

海の中で、いろんな人に会った気がするが、
たくさんのことがあっというまにすぎてしまって、もう、なにも思い出せない

いま、わたしのまわりは いちめんのすすきの、
太陽のひかりをあびて、きらきらしている

むかしここで、映画をとった気がした。

「あらあらどうも、」と、おじいちゃん フランソワのパンをたべている。すこし、お線香のにおいがした
「あっというまにとしをとって、しんでしまったのね。」
「そうだねえ、」
「きのうのこともおもいだせない、ほんの一瞬だよねえ、」うんうん。わかってる。
空を魚がおよいでいる。

足元に、きらきらうごめく何かが見えた。よくみると、小さな町だった。小さな生き物が、なにかせっせとうごいている。家には光が灯っていて、おいしそうなにおいがした。
わたしはそれを、ずっと見ていた。
形がぐねぐね 大きくなったり、小さくなったり、変わっていくので、ふみつぶさないように、足をうごかしながら、ずっと、、、ずーっと、見ていた。

町のはずれで、少年がころんだ。
いつのまにか、わたしは町の中にいた。


《よるの町》

わたしは、いすにすわっていて、ここは、コメダコーヒーで、
向かいの人がわたしにむかって、ひつじの話をしていた。
なんとなく、おかあさんに似ている。
席をたって、ドアをおした。外はもう暗くて、外灯が、みずたまりをてらして、わたしはそれをとびこえながら、すすんでいく。ネオンや、窓や、すべてが一定の速度で流れて、屋根も、ガードレールも、わたしを含む景色のすべてが、夜だった。
家をさがしてあるいたけれど、わたしの家がどこにもなかった。
表札のひとつひとつがあいさつをしてきたので、小声で こんばんは、と返した。

桜の木が、ざわざわゆれていた。

橋をわたって、スーパー、薬局、図書館の前をとおって、高校の正門にきたところで、くつをはいていないのに気づいた。途中でなくしたみたい。

うしろをふりかえると、朝になっていた。


《かき氷》

上空1万メートルで、ひこうきがとんでいる。
その中で、たくさんの小さな人たちが、たのしそうに話をしている。
雲は、よくみると、小さな水が凍ってできていた。さわってみるととてもつめたくて、甘いあじがした。
金魚が「すぐにとけてしまうから、はやくたべなさい」という。

はあ〜〜〜、夏は、舌が、ひりひりするなあ〜〜〜、、、

ひこうきが、わたしの肩にコツンとあたった。
ひらくと中に言葉がかいてある。

『ひさしぶり!
お元気ですか?
庭のトマトは、とても大きくて、
いまにも枝からこぼれおちそうです。
宇宙のくらしには、慣れましたか?
ひつじを200匹送ります。
夜がさみしくなったら、数えてね。 母より』

お母さんに会えるもの、あと何回なのかなあ〜〜〜、、
今年のトマトは、出来が良いですね もぐもぐ
はあ…………、わたしは、いま、どこに立っているんだろうなあ〜〜〜〜、、

200匹のひつじが、全部はしってどこかへ行ってしまった。
彼らの足のすきまから、一瞬、佐賀が見えた。

あっ


《台風》

わたしのからだは宙に浮いていた、
学校の机やいす、街路樹、車、家、すべてが浮いていた。台風だ!
わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だと言い聞かせた。わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だ、わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だ、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、……

(おかあさんに会えるのも、あと何回なのかなあ〜 お盆とお正月は佐賀に帰るから、年に2回は会えるでしょ、わたしもおかあさんもたぶんすごく長生きするし、ひつじが200匹いたから、200回は会える、とおもう! 200回も会えるから、最初の50回は、けんかをしてもいい50回で、次の50回は、おかあさんとおいしいものを食べる50回で、次の50回は、おかあさんとおでかけする50回で、最後の50回は、いえでのんびりする50回に、することに、する!)

台風が去って、全部が海になっていた。
子どもとはぐれたくじらのお父さんが、ないていた。
遠くで魚がはねた。ひつじだったかもしれないが
わたしはもぐって、からだをさかさまにした。うみのなかは、透き通ってなくて、お線香のにおいがしていて、
《じりりりりりりりり》
アラームの音がなった。

金魚がぴちょんとはねた。

わたしは、テーブルの上のたべかけのパスタを片付けて、歯みがきをした。
こんな顔だったっけ。
とにかく、約束の時間がせまっていた。
わたしはくつをはいて、げんかんの扉をあける。
外に出た瞬間、くびのうしろに汗をかいた。
季節は夏で、もう8月のおわりで、、夏、あっというまに、、、(すぎていってしまうなあ、、、)

(ごーーー、、)

上空1万メートルのところで、ひこうきが通りすぎた。