2015.8.15 まにまに「しろい日」
作・演出 吉村桜子
音楽 野呂有我
絵 河合真維
出演 後藤万奈(ぶんちん)
演出補佐 かしやましげみつ(孤独部)
◇
おじいちゃんがしんでもう8年になる 9年だったかもしれないが
とにかく、今年の夏ははじめて、佐賀に帰らなかった
わたしの上空1万メートルを、ひこうきが
ごーーー、、と、飛んでいる
エアコンの効いた部屋はきもちよくて、
わたしは、すいそうの金魚を、ぼんやりながめていた
「あ、はねた、」
金魚を見ているうちに、なんとなく、すいこまれるような気もちになる。
足が、そっと浮く
弟の育てていた、ウツボカズラのことをおもいだす。
どこかから、お線香のにおいがしている。
どくだみのかげで、金魚がわらっていた。
海が、いつの間にか近づいてきていて、
あっ、
というまに ぶくぶく わたしはのみこまれていた。
◇
《うごめく町》
海の中で、いろんな人に会った気がするが、
たくさんのことがあっというまにすぎてしまって、もう、なにも思い出せない
いま、わたしのまわりは いちめんのすすきの、
太陽のひかりをあびて、きらきらしている
むかしここで、映画をとった気がした。
「あらあらどうも、」と、おじいちゃん フランソワのパンをたべている。すこし、お線香のにおいがした
「あっというまにとしをとって、しんでしまったのね。」
「そうだねえ、」
「きのうのこともおもいだせない、ほんの一瞬だよねえ、」うんうん。わかってる。
空を魚がおよいでいる。
足元に、きらきらうごめく何かが見えた。よくみると、小さな町だった。小さな生き物が、なにかせっせとうごいている。家には光が灯っていて、おいしそうなにおいがした。
わたしはそれを、ずっと見ていた。
形がぐねぐね 大きくなったり、小さくなったり、変わっていくので、ふみつぶさないように、足をうごかしながら、ずっと、、、ずーっと、見ていた。
町のはずれで、少年がころんだ。
いつのまにか、わたしは町の中にいた。
◇
《よるの町》
わたしは、いすにすわっていて、ここは、コメダコーヒーで、
向かいの人がわたしにむかって、ひつじの話をしていた。
なんとなく、おかあさんに似ている。
席をたって、ドアをおした。外はもう暗くて、外灯が、みずたまりをてらして、わたしはそれをとびこえながら、すすんでいく。ネオンや、窓や、すべてが一定の速度で流れて、屋根も、ガードレールも、わたしを含む景色のすべてが、夜だった。
家をさがしてあるいたけれど、わたしの家がどこにもなかった。
表札のひとつひとつがあいさつをしてきたので、小声で こんばんは、と返した。
桜の木が、ざわざわゆれていた。
橋をわたって、スーパー、薬局、図書館の前をとおって、高校の正門にきたところで、くつをはいていないのに気づいた。途中でなくしたみたい。
うしろをふりかえると、朝になっていた。
◇
《かき氷》
上空1万メートルで、ひこうきがとんでいる。
その中で、たくさんの小さな人たちが、たのしそうに話をしている。
雲は、よくみると、小さな水が凍ってできていた。さわってみるととてもつめたくて、甘いあじがした。
金魚が「すぐにとけてしまうから、はやくたべなさい」という。
はあ〜〜〜、夏は、舌が、ひりひりするなあ〜〜〜、、、
ひこうきが、わたしの肩にコツンとあたった。
ひらくと中に言葉がかいてある。
『ひさしぶり!
お元気ですか?
庭のトマトは、とても大きくて、
いまにも枝からこぼれおちそうです。
宇宙のくらしには、慣れましたか?
ひつじを200匹送ります。
夜がさみしくなったら、数えてね。 母より』
お母さんに会えるもの、あと何回なのかなあ〜〜〜、、
今年のトマトは、出来が良いですね もぐもぐ
はあ…………、わたしは、いま、どこに立っているんだろうなあ〜〜〜〜、、
200匹のひつじが、全部はしってどこかへ行ってしまった。
彼らの足のすきまから、一瞬、佐賀が見えた。
あっ
◇
《台風》
わたしのからだは宙に浮いていた、
学校の机やいす、街路樹、車、家、すべてが浮いていた。台風だ!
わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だと言い聞かせた。わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だ、わたしは宇宙飛行士だから大丈夫だ、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、わたしは宇宙飛行士、……
(おかあさんに会えるのも、あと何回なのかなあ〜 お盆とお正月は佐賀に帰るから、年に2回は会えるでしょ、わたしもおかあさんもたぶんすごく長生きするし、ひつじが200匹いたから、200回は会える、とおもう! 200回も会えるから、最初の50回は、けんかをしてもいい50回で、次の50回は、おかあさんとおいしいものを食べる50回で、次の50回は、おかあさんとおでかけする50回で、最後の50回は、いえでのんびりする50回に、することに、する!)
◇
台風が去って、全部が海になっていた。
子どもとはぐれたくじらのお父さんが、ないていた。
遠くで魚がはねた。ひつじだったかもしれないが
わたしはもぐって、からだをさかさまにした。うみのなかは、透き通ってなくて、お線香のにおいがしていて、
《じりりりりりりりり》
アラームの音がなった。
金魚がぴちょんとはねた。
わたしは、テーブルの上のたべかけのパスタを片付けて、歯みがきをした。
こんな顔だったっけ。
とにかく、約束の時間がせまっていた。
わたしはくつをはいて、げんかんの扉をあける。
外に出た瞬間、くびのうしろに汗をかいた。
季節は夏で、もう8月のおわりで、、夏、あっというまに、、、(すぎていってしまうなあ、、、)
(ごーーー、、)
上空1万メートルのところで、ひこうきが通りすぎた。